嶺々を越えて信濃の秋の雲           前島 厳水

嶺々を越えて信濃の秋の雲           前島 厳水

『この一句』

 信州へ行くと、なるほどここは山国だ、と思う。北アルプス、中央アルプス、南アルプス。その他にも名だたる高山、大山が連なっている。人々は山々の間の「盆地」「平」「谷」と名のつくような場所に集中して住まざるを得ない。空はもちろん山と山との間にあり、雲は山を越えて流れてくる。
 秋風は西北から吹いてくるはずだ。雲もまた風に乗り、同じ方角からやってくる。人々はその土地ごとに、秋雲の来る方向の山の名を心得ているのではないだろうか。例えば白馬から、槍・穂高から、木曾駒から……。少年であれば山村暮鳥の詩のように、「おうい くもよ」と呼びかけるかも知れない。
 この句、「信濃の秋の雲」の「の」重なりが気になっていた。「信濃へ」とした方がスムーズに読むこと出来る、と思ったのだ。しかし作者が判明して、やはり「の」とする他はない、と考えを改めた。彼は諏訪生まれであった。雲は嶺々をはるばる越えて来て、「信濃の雲」になったのである。(恂)

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