朧月弁天様の島照らす             印南 進

朧月弁天様の島照らす             印南 進

『この一句』

 初めは上野・不忍池の真ん中にある、あの小さな島かと思った。上野の山で夜桜を見がてら、池之端まで下りて来て、蓮の葉が広がり出した池の面を眺める。池の真ん中に弁天堂が浮かんでいて――。というような状況を想像したのだが、作者が判明して、そうか、江ノ島だった、と気づいた。
 作者は鎌倉在住であった。「弁天様の島」と親しげに呼んでいるのは、彼が地元の人であるとともに、男性であるからかも知れない。ここ、江島神社のご神体は「裸弁天」と呼ばれ、真っ白で、とても艶めかしいと聞いている。弁天様が嫉妬するから、男女のいっしょの参拝は禁止、などとも言われてきた。
 この句、片瀬か腰越あたりの対岸から島を眺めているのではないだろうか。昼間は焼き蛤売りなどで大にぎわいの島も観光客は帰った後で、あたりはひっそりとしている。海はとっぷりと暮れた。イカ釣りだろうか、遠くに漁火がちらちらと……。空に朧月がかかり、江ノ島も弁天様もおぼろである。(恂)

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