冬の蝶近衛連隊ありし跡     玉田春陽子

冬の蝶近衛連隊ありし跡     玉田春陽子

『この一句』

 冬の蝶には何らかの跡地が似合うようだ。廃校、工場跡、練兵場跡。広さがあり、人がめったに来ないのでひっそりとしている。建物の隅や植え込みの下に日の当る場所もあって、凍える恐れもなさそうだ。蝶はここで春を待つが、途中で命が絶えたとしても、以って瞑すべしではないだろうか。
 近衛連隊は天皇や宮城の警固にあたり、戦場に出ることもあった。師団の中にいくつかの連隊があるが、句の場所は作者によれば、東京・千代田区の旧近衛司令部である。かつての建物は東京国立美術館工芸館に変わったが、昔の赤レンガ造りはそのままで、クラシックな雰囲気を漂わせている。
 蝶の越冬地として、この敷地のどこが適当か、と考えてみた。入口近くに人のあまり来ない場所がある。木々もよく茂っているから、蝶は安心していられるだろう。目印は北白川能久元師団長の騎馬銅像。明治維新の頃、彰義隊に「天皇候補」として担がれ、東北へ逃げた後に謹慎、外国女性との恋愛でも有名になった人だ。世のことはすべて夢の如し。冬の蝶はここでどんな夢を結ぶのだろうか。(恂)

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