主なき年は静かに暮れにけり       山口斗詩子

主なき年は静かに暮れにけり       山口斗詩子

『この一句』

 彼は何でも頼みやすい人であった。俳句会のことも、NPOのことも、重い荷物を運ぶような仕事も、何を頼んでも「はい、はい」の二つ返事で引き受けてくれた。麻雀に誘われればほとんど断ることなく、負けてばかりいた。そんな彼が亡くなったのだから、仲間の誰にとっても大きな痛手であった。
 先日、JR新宿駅のホームで見知らぬ男性を遠くから見て、「あっ、彼かな」と思ってしまった。彼のことだから、いろんな人にそう思わせているのだろう。私は彼を親友だと思っていたのだが、彼に親友が大勢いたことが分かってきて、普通の友人くらいでいるべきだったかな、と思っている。
 奥さんは「手の掛る人でした」と言う。「蓋がきっちりと締められないのです」と話していた。醤油の瓶もジャムの瓶も、いちいち蓋を点検して締め直さなくてはならなかったそうである。そういうご主人を失った今年、奥さんは静かな歳末を過ごしているようだ。俳句を本気で作られたことはないらしいが、これは何とも心を打たれる句である。俳句はなるほど省略の文芸だ、と教えられている。(恂)

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