居待月夫の靴音猫の声   大下 綾子

居待月夫の靴音猫の声   大下 綾子

『この一句』

 居待月が既に中天にかかっている。もう夜もだいぶ更けた。聞き慣れた靴音が響いて来る。このところ残業で毎晩遅いのだが、靴音は乱れてもおらず、しっかりしているのでひとまずほっとする。それより早く、うずくまっていた猫がぱっと起きるや、ミャアと鳴いて戸口に向かって駆けだした。「私がお使いから帰ってきても知らんぷりしているくせに」とおかしくなってしまう。
 猫は本当に身勝手だ。犬のようにお愛想など絶対に振りまかない。自分の好きなままに振る舞う。猫好きはそこがまたいいと言う。取り立てて猫好きというのではないが、自然に振る舞うところはいいなと思う。
 自分のことを本当に好いてくれて、守ってくれる人は誰なのか、猫はちゃんと知っている。この男がボスであり、自分を可愛がってくれることが分かっている。だからこちらも懸命に親愛の情を伝えとかなければならない。ドアを開けて入って来るやミャアと言いながら身体をこすりつける。ご主人も猫なで声で応じる。私も遅ればせながら立ち上がる。夫婦と猫一匹、世は事も無し。(水)

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