悠然と勝碁確かめ居待月   高石 昌魚

悠然と勝碁確かめ居待月   高石 昌魚

『この一句』

 碁のうまい人がこんな句は詠まない。詠んだら嫌味なだけである。いつもいつもやられて悔しがってばかりいるのに、碁が好きで好きで・・古典落語「笠碁」の主人公のような人に違いない。
 今夜は前々から目をつけていた、なんとか勝てそうな相手をいろいろな理由をくっつけて自宅の晩御飯に招いた。一杯飲ませ、さあさあと一局始めた。もちろん自分はあまり飲まぬよう我慢している。
 細工は流々、苦心の甲斐あって、どうやら大勝利疑いなしだ。どこかに見落としは無いだろうか。うっかり見落としたのがもとで大逆転を喫し、眠れぬ夜を過ごしたことなど数知れず。入念の上にも念入りに、盤面隅々までじっくり確かめる。
 もう大丈夫だ。相手は苦悶の表情。溜息なんかついてる。いつもとは正反対。まあ何といい気持なんだろ。こぼれる笑みをぐっと堪えて仰向く。時あたかもガラス窓から居待月が顔のぞかせた。こんな美しい月は見たことがないなあ・・。(水)

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