卯の花を知らずこれまで生きてきし    片野 涸魚

卯の花を知らずこれまで生きてきし    片野 涸魚

『季のことば』

 唱歌「夏は来ぬ」で知られる卯の花(別名うつぎ)。しかし、どんな花? と問えば、首をひねる人が多い。垣根として、畑と道の境木として、よく使われていたのは昔の話。都会では、めっきり見かけない植物になっており、知っているようで知らない花の最上位にランクされるのではないか。
 植物事典には「初夏になれば、全国いたるところに小さな白い花をつけ」などと書かれている。東京近辺でもちょっとした山に行けば見ることはできるのだが、「これが卯の花だ」と気づく人は少ない。野生の風情の漂う花だけに、山でたまに見かける花だなぁ、程度の認識に終わってしまうようだ。
 俳句をやる人なら別、でもないらしい。「卯の花」が句会の兼題に決まってから慌てた人が案外多かった。それらしき花を見つけ、家の人に「これ、卯の花ですか」と訊ねた人がいた。探しあぐねて一万歩を歩いた人もいた。しかし、たいしたものではないか。一つの花が、何人もの人をこれほどに動かしてしまうのだ。卯の花の力? いや、卯の花が兼題になったればこそ、である。(恂)

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