麗らかに時移りゆく別れあり      藤野十三妹

麗らかに時移りゆく別れあり      藤野十三妹

『この一句』

 誰との別れか、どのような別れだったか、などについてはおおよそ想像がつくが、この際は触れないことにしよう。ともかく誰かと別れた。それから後のことを、この句は詠んでいる。暖かな一日である。作者は公園のベンチにでも腰を下ろし、眺めるともなく周囲の景色を眺めているのだろう。
 光陰矢のごとし、なんて考えているのかも知れない。あの人と別れてから、もう一か月も経ってしまった。桜が咲くまではばかに寒かったが、このところようやく春らしくなった。別れるってとても辛い、とふさぎ込んでいたけれど、麗らかな陽気に身を置いてみると、必ずしもそうではなかった。刻一刻と過ぎていく時間が、悲しさを少しずつ融かしてくれるようだ。
 結局、どんな別れも時間が心の痛みを和らげてくれるらしい。麗らかな陽気に身をゆだねていると、あの人もこのような心地よい世界に住んでいるのだろう、と思えてくる。つい先日までは辛くて苦しくて、耐えられぬほどだったのに、今では別れた人の笑顔が心の中に浮かんでいる。(恂)

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