一輪のある閑かさや白障子         井上 啓一

一輪のある閑かさや白障子         井上 啓一

『この一句』

 実にすがすがしい感じのする句である。その部屋は、張り替えて間もない真っ白な障子に囲まれ、床の間か違い棚などに一輪の花が活けられている。時刻は何時ごろだろうか。午前中でも、夜でもいいかも知れないが、冬の午後三時過ぎ、日がやや翳ってきたころがよさそうな気がする。
 「障子」は冬の季語である。その昔は秋が深まると各家で障子の張り替えを行い、部屋の雰囲気を一新させた。寒さ対策だけでなく、正月を迎えるための準備という意味合いもあった。真っ白な障子に囲まれた部屋は非常に明るく、別世界が生まれたような気がしたものである。
 そんな室内に一輪の花。作者が花の名を特定しないのは、季重なりを避けるためかも知れない。しかしその工夫が読み手の想像を膨らませる余地を与えた。さて、この時期に咲く花は何か。一輪なのだから、庭で剪った花と考えられよう。山茶花か、寒椿か……。部屋の雰囲気を「閑か」と表記した作者の思いに応えるには、小ぶりながら味わいの深い花、白の侘助が最も相応しいような気がする。(恂)

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