樺太のかすかに見えて秋の潮   高井 百子

樺太のかすかに見えて秋の潮   高井 百子

『季のことば』

 「秋潮」は干満の差が激しく、上げ潮も引き潮も人の目にはっきり映るほどになる。大きく引いて露わになった岩礁や砂浜に秋の訪れを感じ、一抹の感傷を抱く。
 この句には「宗谷岬」との前書きがあるから、遙々やってきたなあという思いも重なって感慨も一入であろう。宗谷海峡の青黒い潮の流れもそれをかき立てるようだ。岬の突端から遥か海上を見つめると、ぼんやりと陸地が見える。「あれがカラフトですよ」と案内してくれた人が告げる。ここから樺太までは直線距離で40キロあるかどうかの近さなのだ。
 作者のご子息が結婚、お嫁さんの実家がこの近くなので、新郎の母親として挨拶に来たのが宗谷岬を訪れるきっかけになったのだという。この句の裏側には息子を育て上げた母親の安堵感もありそうだ。もちろんそんな裏話を抜きにしても、静かで落ち着いた気分を抱かせる句である。(水)

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