御岳の風に実の入る走り蕎麦   今泉恂之介

御岳の風に実の入る走り蕎麦   今泉恂之介

『この一句』

 「御岳の風に実の入る」という詠み方には感心した。秋風にそよぐ蕎麦畑が目に浮かぶ。。
 「木曾のなァ御嶽山・・夏でもさーむーい」と歌われる御岳。長野県と岐阜県の境、北アルプスの南端にどっしりと腰をおろしている。山麓一帯は夏は結構暑いが、冬の寒さ厳しく、地味豊かとはとても言えない土地だ。昔は蕎麦に頼るより他は無かったのだろうなと思わせるような山間の狭隘な地形が随所に見られる。しかしこういう場所に出来る蕎麦は実に旨い。蕎麦は米麦はじめ野菜もろくに育たないような寒冷な荒れ地にもよく育つ。しかも種を蒔いて三ヶ月ほどで実る。
 初夏に蒔いた蕎麦は秋に白い花を一斉に咲かせ、菱形の実をいっぱいつける。山国の秋は早い。御嶽山から冷涼な風が吹き下ろす頃、蕎麦の実は熟す。穫り入れたばかりの茶褐色の殻を剥くと、真っ白な中にうっすら緑を帯びた実が現れる。それで打った走り蕎麦を、あたかも御嶽山の霊気を身の内に取り込むようにすすり込む。天地の恵みをしみじみ感じる。(水)

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