ちちははの言葉少なし終戦日   田中頼子

ちちははの言葉少なし終戦日   田中頼子

『この一句』

 戦争の体験を語る人、語らぬ人がいる。どちらも戦争に反対し、平和を希求している点では変わりないのだが、辛い体験をした人ほど語らない傾向があるように思う。この句の父上、母上は「言葉少なし」だという。戦争のこと、終戦前後のことについて、悲しい思い出があるのではないだろうか。
 作者に「兵の日を語らぬ叔父や秋の雲」の句もある。ことに戦場のことは語りたくない、という人も少なくない。何しろ生死をかけて戦いの場にいたのである。何十年経とうが、口にできないほどの悲惨さを体験していたはずだ。そういう人たちが、最晩年に至って、ついに語り出すことがある。あの戦争のことは、やはり後世に伝えておきたい、という気持ちになるからだろう。
 私(筆者)の従兄は、兵としてボルネオなどに派遣されたが、戦争のことは頑としてしゃべらなかった。家族もついに戦争の話題を避けるようになっていった。しかし長い病の後に臨終を迎えた時、「行くな、危ない」と大声で何度も叫んだという。戦争のことをついに語った、と私は思っている。(恂)

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