惣領の老いて青梅黄ばみたり      高井 百子

惣領の老いて青梅黄ばみたり      高井 百子

『この一句』

 広い庭に梅の木があり、そろそろ実が熟してきた。しかしこの家の主人はのんびりと構えている。久しぶりに実家を訪れた妹は、梅の木を見て「どうするのだろう、こんなに黄色くなっているのに」と気になってきた。母が健在だった頃、青梅のうちは梅酒に、うっすらと赤みが出てきたら梅干しへ、と決まっていて、この時期、一家は梅を中心に動いている、という感じがしていた。
 「梅干しなら、まだ間に合うわね」と妹は水を向けてみた。老境に入ってきた兄は「そうだなぁ、おふくろがいた頃はたくさん作ったものだが」とにこにこしている。ボケてきたのかしら、という疑いは、兄の穏やかな表情でたちまち消えた。兄は兄のやり方で、この家を守っているのだ。
 妹は兄を眺めて、これが円熟というものか、と思った。若いころに比べると角が取れ、旧家の主という雰囲気をまとっている。梅の実の黄ばんだ家。ここはもう父母の家ではない。そうなんだ、私の家でもなくなった、と妹は気づいた――。そんな一家の物語が浮かんでくるような一句である。(恂)

この記事へのコメント