木立にも蕎麦待つ席や蚊遣香   大平 睦子

木立にも蕎麦待つ席や蚊遣香   大平 睦子

『勉強会から』

 元の句は「木立にも蕎麦を待つ席蚊取り線香」だった。とても感じのいい句である。どこかで見たような句ではなく、自分が発見した情景を詠んだところがいい。俳句に必須の即興の精神を発揮している。しかし如何せん、5・7・7で字余りが気になる。また「にも」「を」と重なり、少しうるさい。さてどうしたらいいか、皆で考えた。
 「蚊取線香」を「蚊遣香」と言い換えたらどうか。そうすると字余りが解消され、形が整いリズム感が生まれる。そんな議論があって上掲の句になった。「蚊遣香なんて古くさい」と思う人もいた。それならば「木立にも蕎麦待つ席の蚊遣かな」でもいいなという提案がなされた。これもなかなかである。
 客の注文を受けて蕎麦を打つ。それを売り物にしている評判の店だ。時分時には行列ができる。店の脇の植え込みにまで床几が置かれ、客は呼び込まれるのをおとなしく待っている。蚊の攻勢は激しい。頼りない蚊遣りに頼るより仕方がない。しかしそうして待つのもなんとなく浮世離れしていて愉しい。(水)

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