千年の宇陀の水番磨崖仏   澤井 二堂

千年の宇陀の水番磨崖仏   澤井 二堂

『季のことば』

 「水番」とは、夏の渇水期に干涸らびた田んぼに水を引こうと自分勝手に水門を開いたり、堰を壊したりする不届き者の出ないよう、徹夜で番をすること(人)である。とにかく「我田引水」という熟語があるほど、夏の田には水が必須のものであった。心細くちょろちょろ流れる水を皆で公平に使わなくてはいけない。水番にはこの捌き手としての重要な役目もあった。
 室生寺の近く、奈良県宇陀市の大野寺磨崖仏は宇陀川に面してそそり立つ崖に掘られた高さ12mの弥勒菩薩。これを「水番」としたところがなんともおかしい。この川は近隣の田畑を潤し続け、ある年は豊かな恵みをもたらし、干ばつの年には我が田に水を引こうとする村人たちで殺気立つこともあっただろう。磨崖仏は千年もそれを見守って来た。今や潅漑用ダムや用水路が整備され、水争いなど生じない。むしろ気候が荒っぽくなった昨今は、鉄砲水や土石流を引き起こす集中豪雨の方が問題だ。水番磨崖仏の役目も時代とともに変わる。(水)

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