廃坑の煙突高し夏の月           大倉悌志郎

廃坑の煙突高し夏の月           大倉悌志郎

『この一句』

 作者は先年、東京・目黒区美術館の「文化資源としての炭鉱展」で見た絵がずっと忘れられなかったという。描いた人は山本作兵衛(一八九二-一九八四年)。七歳から筑豊・田川の炭鉱で働き、六十三歳まで採炭夫などをしていた。六十歳代半ばから記憶を頼りに炭鉱労働の様子を詳細に描くようになる。
 「寝掘りの様子など、すごいですよ」と作者は語っていた。男性はふんどし一つ、女性は腰巻一枚。立つことの出来ない狭い坑内で、男性が石炭を掘り、後ろの女性がそれを集めていく。ともに寝ながらの作業である。そのような作品の七百点近くが先月、世界記憶遺産に登録されることに決まった。日本で初めての認定である。作者は「おっ、あの絵だな」と嬉しくなった。
 六月句会の兼題の一つが「夏の月」。すぐに廃坑の現状が頭に浮かび、上掲の句が出来上がった。句会でこの句を見て、「炭坑節」を思った人が多かったようだ。「あんまり煙突が高いので、さぞやお月さん煙たかろ」。作者は「もちろん、あの歌詞が下敷きです」と言っていた。「炭坑節」の煙突は、作兵衛が働いていた田川炭鉱のもので、現在も同地の公園内に立っているという。(恂)

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