春立ちぬ修理終えたる鳩時計   廣田 可升

春立ちぬ修理終えたる鳩時計   廣田 可升

『季のことば』

 「春立つ」は立春の言い換え季語で、二十四節気のうち春の最初の節気をさす。新暦では2月4日頃にあたり、まだ「春は名のみ」の寒さが続いている。それでも暦の上とはいえ立春の文字を見ると、春の明るい日差しが差し込んでくる気分になる。
 掲句は立春の気分を上手に詠んだ、技ありの一句である。まず「春立ちぬ」と完了形にすることで、春が巡ってきた喜びを強調している。そこに修理した鳩時計を取合せる。鳴くという言葉がなくても、「修理終えたる」という措辞から、鳩時計が再び時を告げている情景が浮かんでくる。春は芽吹きの季節であり、眠っていた動植物の再生の営みが始まる。そこに動き出した鳩時計を重ね、再生の喜びを響き合わせているのだ。
 鳩時計はドイツ南西部のシュヴァルツヴァルト地方を原産とする、伝統工芸品の機械式振り子時計である。重錘を動力源に針や仕掛けを動かす。世界中に普及し、現在ではクオーツ式が主流になっているが、いずれも毎正時に小窓から鳥が現れて鳴き声で時刻を知らせる。
 英語でcuckoo clock(カッコウ時計)と言うように、現れる小鳥はカッコウである。日本ではカッコウが閑古鳥(不景気な時に鳴く鳥)として縁起が悪いため、鳩時計と呼ばれるようになったとの説がある。そこで掲句に合う鳥を考えてみた。カッコウは南方から飛来する夏鳥なので、そぐわない。春告鳥といえばウグイスだが、ホーホケキョの鳴き声は少しのんびりして時計向きではない。メジロがチュイチュイと鳴く時計なら、春立つ句にしっくりきそうだ。
(迷 26.02.15.)

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