猫の耳ピンと立ちたり漱石忌   中野 枕流

猫の耳ピンと立ちたり漱石忌   中野 枕流

『この一句』

 夏目漱石の忌日は12月9日。1916年(大正5年)、神経衰弱や胃潰瘍の持病を抱えていた漱石は、50歳を目前にして新宿区早稲田の自宅で亡くなった。
 忌日を詠むには、生前のその人ゆかりの物事や人物を彷彿させる事柄を織り込むことが多い。漱石忌の例句をみると、教師、英語、ロンドン、書、病、甘党、新聞、髭、早稲田や本郷、そして猫だ。掲句は、高浜虚子の『ホトトギス』に連載され、一躍人気を博した『吾輩は猫である』へのオマージュ。何と言っても「猫の耳ピンと立ちたり」を配したところが秀逸だ。「漱石の猫はいつも聞き耳を立て周りをシニカルに観察している。そんな感じと漱石忌がぴったり」(豆乳)。「忌日を詠むのは難しけど、この句は季語に響き合っている。忌日の句はこういう風に作ればいいのかと勉強になりました」(水兎)など、年末句会で大好評だった。
 水兎さんの言うとおり、忌日を詠むのは難しい。一つには季感が乏しいことが挙げられる。かなり季語に精通していても、著名人の忌日をスラスラ言える人は少ないだろう。誰それ忌と詠まれても、日付を知らない読者は調べた上で鑑賞することになる。それにしても、冬の忌日には名だたる人物が多い。寒さが障るのだろうか。俳人だけでも芭蕉、蕪村、一茶、波郷、青邨、青畝、信子、石鼎、窓秋、鬼房、乙字、久女、草城、碧梧桐など枚挙に遑がない。
 ところで漱石の号の由来は、ご存知のように「漱石枕流」(枕石漱流と言うべきを間違ったのに、強弁して誤りを認めなかった、という中国の故事)から採った。この句の作者の俳号「枕流」は四字熟語の残り半分を頂戴したもの。漱石忌にことのほか思い入れがあるのも頷ける。
(双 26.01.13.)

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