酉の市メトロ狭しと大熊手    杉山 三薬

酉の市メトロ狭しと大熊手    杉山 三薬

『季のことば』

 十一月の年中行事「酉の市」。江戸時代から関東各地で続いているが、なんと言っても東京浅草の酉の市が規模も大きく名高い。鷲(大鳥)神社に熊手市が立ち開運、商売繁盛を願う人が列をなす。本家本元の大阪・堺の大鳥神社には熊手市も夜の屋台も出ないそうだが、現代では主に東京の風物詩となっているようだ。令和七年は十四日、二十四日の酉の日に催される。火事が多いとの古諺がある三の酉はない。毎年ずいぶんな人出があり、ことに二十四日は振替休日で相当な人波が押しかける。
 掲句は「メトロ」とあり、地下鉄そばの新宿花園神社(三大酉の市)とも考えられないではないが、まず浅草の情景とみていい。府中の大國魂神社(同)に住まいが近い作者ではあっても、浅草の大賑わいを浮かべて作った句と思える。初冬の寒気と夜市のきらびかさ、「それ、それ、繁盛、繁盛、繁盛」の掛け声と威勢のよい手締めが鳴り響く。
 「酉の市」の兼題にこたえ、句友の作は熊手、お多福、屋台、人波、手締めなど定番のほか、英語の客やヒジャブ姿のモスリムを詠んだものも登場、目新しさもあった。混雑の中の熊手を詠むのは定番には違いない。たしかに地下鉄の狭い通路、ホームで大熊手を担いで歩かれたら他の乗客は迷惑だ。筆者も「人を分け改札くぐる大熊手」と同様の場面を詠んだのだが、「メトロ」の一語が入った掲句には遠く及ばない。改札口という小景より、メトロ駅と車内風景をも想起させる句に出会って納得したことである。
(葉 25.12.01.)

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