もぎたての柿を拭きをる句友かな 坂部富士子
『合評会から』(清瀬吟行)
青水 病院内の木々は実りの季節を迎えていた。イイギリの巨木はブドウのように房状に垂れ下がる赤く熟した実を無数に実らせていた。仲間のひとりが園内の柿を失敬して、美味そうにかぶり付いていた。
迷哲 吟行の楽しみは景色や名所を探勝するだけでなく、同行の句友と語り合い、人柄に触れることにもある。東京病院裏の広大な廃園に生っていた柿を頂戴した句友のいたずらを、句に仕立てた。
可升 そういういたずらっ子のような爺さんが約一名いましたね。
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旧清瀬病院・サナトリウムの裏庭は、都内によくぞこれほどの遊休土地があるのかと驚くほどの、広大な廃園となっていた。そこを句友七人でそぞろ歩いた。
不治の病と言われた肺病。抗生物質が行き渡る前の昭和20年代までは、これにかかってしまうと寝たり起きたりの生活を余儀なくされた。栄養豊富な食べ物をできるだけ摂取し体力をつけ、日光浴し、散歩をして外気を吸い、ただただ自然治癒を待つという暮らしである。この東京国立病院は全国に散在した「隔離病院」の中でも最大の施設だった。
近代医学のお陰で結核がほぼ制圧された今、ここは無用の「遺物」となった。「記念すべきような物ではない、忘れてしまいたい」ということなのか。全く手入れもされず、放置されている。たわわに実った柿を取る人もいない。元気溌剌の吟行案内役が無造作にもぎ取り、手拭いで拭ってかぶりついた。
(水 25.11.11.)
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