万博や残るリングに後の月 伊藤 健史
『この一句』
日経俳句会10月例会の兼題「後の月」に、13日に閉幕した大阪・関西万博を取合せたものが4句並んだ。掲句はその中で最も点を集めた句で、国民的祝祭が終わった喪失感と、後の月の物寂しい感じがよく合っている。さらに大屋根リングの一部が保存されるという時事的要素も盛られ、誰もいなくなった会場でリングだけが月明かりに照らされる光景が浮かび、祭りの後の寂しさが募る。
大阪で万博が開かれるのは1970年の日本万博以来55年ぶり。大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)での開催は、アクセスの悪さやパビリオンの建設遅れなど難題山積だったが、184日間の期間中に2,900万人を超す観客を集め、事業としては大きな成功を収めた。リピーター客も多く、閉幕時には「万博ロス」の言葉も聞かれたほどだ。
では今回の万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」は、明確になったのであろうか。空飛ぶ車やアンドロイドなど技術的な目新しさはあったが、世界の未来、地球の未来へのデザインは見えない。会場の外ではウクライナ、ガザで戦争が続き、温暖化は深刻化する一方である。350億円かけて建設した大屋根リングは大半が解体される。パビリオンの建設費未払いに苦しむ会社もなお残っている。選句表には「夢洲の夢の残骸後の月」という句もあった。テーマが輝かしいだけに、影の部分もまた際立つのである。
(迷 25.10.29.)
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