仕事持つ母の休日とろろ汁 高井 百子
『この一句』
とろろ汁は作り出せば簡単である。しかし、まず出汁を取り、醤油と味醂の塩梅良い合わせつゆを作り、さまして置く工程がある。一方、山芋の皮をこそげ取り、酢水に浸す下拵えがある。そして、擂鉢、擂粉木などの道具立てがあり、やおらきれいにした山芋を卸金で擂鉢に擦り下ろし、ごりごりと擂粉木を回し始める・・等々を考えると、つい億劫になってしまう。ましてや仕事を持つ母親ともなれば週日にはちょっと手を出しかねる。
しかし、とろろ汁は子供が大喜びする。大人だって「ああ、秋だなあ」と嬉しがる。かくて日曜日は「母さんのとろろ汁の日」ということになる。子供たちは擂鉢を押さえたり、スリコギを持って手伝ったりと大騒ぎだ。しかしこれが何よりの母子のスキンシップになる。擦っている途中に汁が跳ね飛んだり、十分に擦れていなかったりしたって、何ほどの事があろう。子供たちは自分たちが「一緒に作った」ことが何より嬉しくて、美味しさも倍増、いつもよりうんと炊いたご飯がすぐにすっからかんになってしまう。
この句を選句表に見つけて、真っ先に取った。「こども」という言葉が出てはいないが、子供のはち切れるような笑顔がぱっと浮かぶ。
同じ句会に私は「擂鉢は妻が抑へてとろろ汁」と老老家庭の情景を詠んで出したのだが、このいかにも寂しい句に比べて、掲句のなんと溌剌たることよ。
(水 25.11.27.)
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