国東の水澄む磯の兜蟹      嵐田 双歩

国東の水澄む磯の兜蟹      嵐田 双歩

『季のことば』

 たしかな秋の季節に入れば水が澄んでくる。池、湖、川はもちろん、海までも心なしか透明度が増してくるような気がする。秋の気持よさを表す季語の一つが「水澄む」である。水澄むところがどこかにあれば句を詠めそうだ。またこの澄明な季語を拝借して自分の心情をうたう抒情句を詠むこともできよう。
 作者は舞台を大分の国東半島にもってきた。国東では神話の岩戸神楽にちなむ夜神楽が集落の秋の行事になっているようである。歴史遺産なら神仏習合発祥の地を物語る熊野摩崖仏があるほか、別府湾に面した日出町の崖上に日出城址がある。城下かれいで有名な磯浜が石垣の下まで迫り、海中からは清水がこんこんと湧き出ていて、かれいを美味にしているという。掲句は日出浜の風景を借りて、まさに「水澄む」を詠みあげたものと推察する。訪ねたことがない人でもこの風景を想像できるのではないだろうか。
 「兜蟹」という古生代の生き物はこのあたりにもいるようだ。これが「水澄む」と対比をなしている。エイかと見まがうような、見るからに異形の節足動物がノソノソと磯に上ってきている光景だろう。神話の国東の水澄む透明感と、食用にならない兜蟹の無様な存在が句を面白くしている。新聞社の写真部記者であった作者が、いつか取材の途中見た実景と受け取っても間違いでなさそうに思えるのだが。
(葉 25.10.17.)

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