鰯雲手足拡げて露天風呂 前島 幻水
『季のことば』
鰯雲は秋の空を代表する雲だ。抜けるような青空いっぱいに白い雲の切れ端が絣のように並ぶ。大海原を大群のイワシが寄せて来るように見えるところから「鰯雲」と呼ばれるようになった。実際、この雲が現れると鰯が大漁になるとも言われている。また、魚の鱗に似ているところから「鱗雲」と言われ、鯖の腹背の斑紋のようにも見えるから「鯖雲」とも呼ばれる。とにもかくにも天高き空にこの雲が現れると、いかにも秋という感じになり、晴々とした気分になる。
この句はあまり混雑しない山間の温泉だろう。早めに宿について早速露天風呂に浸かる。誰もいない。思い切って大の字になり湯に浮かぶと、天高く晴れた空に鰯雲が広がっている。「ああ、いいですねえ。露天風呂で両手をう~んと拡げ空を仰いだら鰯雲。こちらも気持よくなってきました」(斗詩子)という句評が言い尽くしているが、まさに寿命が伸びる気がする。
この場面は年齢性別関係なく気持の良いものだろうが、特に年寄りには何とも言えない心地良さを与えてくれる。70歳を超えれば大概どこか具合の悪いところを抱えている。ましてや連れ合いに去られての独り住まいや、連れ合いが具合を悪くして自分も昔ほど自由に動けないといったことになれば、ごくたまに訪れるこうした機会は本当に極楽気分ということになる。
(水 25.10.15.)
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