稔り田と刈田を縫って久留里線 向井 愉里
『この一句』
実りの秋を迎えたローカル線の車窓風景を鮮やかに切り取り、9月の番町喜楽会で最高点を得た句のひとつである。稔り田と刈田という二つの季語をあえて並べたところに現場感がある。田んぼは陽当りや水利によって実る時期が違ってくる。田植の時期が同じでも、刈り取りのタイミングがズレ、稲刈りの終わった刈田と、まだ稲穂の残る稔り田が混在することになる。
稲刈り前後の田んぼがパッチワークのように広がる田園地帯を、久留里線のディーゼル車が走る。「縫って」という動詞を使ったことで、列車が稲原をコトコトと通り抜けて行く情景が浮かんでくる。
実は今年4月に、俳句会で久留里周辺の名所を巡る吟行を行った。その時は田植の済んだ植田と、これからの代田が沿線に広がっていた。実家の久留里に時々帰るという作者は、「吟行に来てもらったので、近況報告のつもりで詠みました」とコメントしていた。吟行の記憶のある身には、あの風景が今はこうなっているのかと、感慨もひとしおだった。
久留里線は木更津から内陸の上総亀山まで、32キロを走るローカル線である。木更津市街を抜けると長閑な田園地帯が広がり、久留里からは里山に分け入って行く。ご多分に漏れず経営状況は厳しく、久留里から上総亀山までの区間はJR東日本管内で収支係数がワーストワンという。現在この区間のバス転換協議が地元と続けられているが、日本の原風景ともいえる田園と里山、それを縫って走るローカル線が、将来も残って欲しいと願わずにはいられない。
(迷 25.09.23.)
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