稲穂垂れ野鳥群がる田んぼかな  堤 てる夫

稲穂垂れ野鳥群がる田んぼかな  堤 てる夫

『この一句』

 瑞穂の国とも呼ばれる日本にとって、稲は人々の生活や文化に密接に結びついている。日本人の根幹を成すと言えるほどで、米不足、備蓄米放出、新米高騰など令和の米騒動がかまびすしいのも頷ける。
 掲句は、その日本の原風景を素直に掬い取った。たわわに稔った稲穂に稲雀が群がって啄んでいる。ああ、まさに「すべて世はこともなし(ブラウニング)」。恬淡とした心情が読者に心地よく伝わってくる。
 作者が信州・塩田平の一角に居を構えて十数年になる。眼前に広がる田んぼの四季折々の移ろいを借景に、日々を自適に過ごす姿が目に浮かぶ。「ひょいと首伸ばす白鷺稲の秋」、「敗戦忌あの田この田も出穂す」、「穭田や鷺悠然と舞ひ降りる」など、これまで当ブログに取り上げられた稲を詠んだ作品だけでも、地に足がついた佳句ばかりだ。
 互選による句会では、ややもすると掲句のようなさりげない句は見過ごされやすいが、飾ることのない素直な表現は、じわりと心を満たしてくれる。
(双 25.09.15.)

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