線香花火妻と長生き競ひをり 岡田 鷹洋
『この一句』
線香花火と長生き夫婦という意外なものを取合せ、8月の日経俳句会で最高点を得た句である。
線香花火は日本の伝統的な手花火のひとつで、藁に黒色火薬を塗り付けたすぼ手(西日本型)と、和紙をより合わせて火薬を包んだ長手(東日本型)がある。火球の成長に伴い、燃え方が段階的に変化する様を楽しむ。火花の出方の順に蕾、牡丹、松葉、柳、散り菊という風雅な呼び名もある。夏の夜に線香花火がどこまで燃えるか、長さを競った経験はどなたもお持ちであろう。
掲句は、しぶとく火花を出し続ける線香花火と、長年連れ添った夫婦を重ね、明るい雰囲気の句に仕上がっている。初めは小さな火花が次第に大きくなり、最盛期を過ぎた後も小さな火花を出し続ける。線香花火の消長が夫婦・家族の来し方に重なって見えるのであろう。作者は現在87歳、奥様の歳は存じ上げないが、「長生きを競ふ」という措辞には実感がこもっているように思う。
線香花火は儚さ、淋しさのイメージもあるだけに、長寿の夫婦との意表を突く取合せが、選者の心に刺さったようだ。句評も取合せの妙に集中した。その中で88歳の水牛さんの「線香花火を持って来たのが素晴らしい。パチパチと火花が続いた後、もうお仕舞いかと思ったら、またパチパチと火花が始まる。長い間連れ添った夫婦みたいなものですね」という句評にもまた、長寿夫婦の感慨が滲んでいた。
(迷 25.09.13.)
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