帰還するヨットを囃す鷗かな 溝口 戸無広
『この一句』
兼題はヨット。ヨットマンを夫に持った一人を除き、句会メンバーでヨットに親しんでいる者はいない。だから皆さん相当、苦吟なさった。高得点を取ったヨット句の中で最高点をとったのがこの句である。夕日を背にして、悠然とハーバーへ戻って来た艇の様子を詠んでいる。ところがこの句について、句会では二点ほど論戦が戦わされた。「帰還」の措辞と「囃す」の是非である。
先ずは帰還。帰還とはいかにも大げさすぎる。素直に帰港ではいけないのかとの疑問が出された。確かに指摘されるとその通りだ。旅先や戦地などから基地や故郷などへ戻るときなど、少し構えたケースで利用されることが多い。宇宙船から地球へ帰還する。激戦地から帰還したなど。無事といった言葉を添えて使用される場合が多い単語だ。この句からヨットが大航海を乗り越えて還ってきたとは読み取りにくい。囃すにも疑問が出された。漁船ならまだしも、ヨットが戻ったくらいでそんなに鷗が大挙して集まるのか。
そういわれればその通りでもある。でもボクはこの句に出会った時、真っ黒に日焼けした子らの喜びの声を聞いた。それにつられて集まってきた物見高い鷗らの歓迎の叫びも聞こえて来た。帰還という大げささも囃すという物々しさも、俳句を咀嚼する者の特権である。ボクはこの句に若者の雄たけびを感じ取ったのだ。
(青 25.08.29.)
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