三振もリハビリも華日天心 杉山 三薬
『この一句』
ミスタープロ野球と呼ばれ、国民的人気を集めた長嶋茂雄氏が6月3日に亡くなった。6月18日開催の日経俳句会では、追悼句が選句表に4句並び、根強い長嶋人気を示した。その中で目を引いたのが掲句である。
天覧試合のサヨナラホームランをはじめ、数多くの長嶋伝説が残る中で、三振とリハビリというマイナスの要素を取り上げ、それさえも長嶋なら「華」になると逆説的に表現することで、彼の人柄を浮き彫りにしている。
プロ野球のデビュー戦で国鉄の金田正一投手と対戦し、4打席4三振に倒れたのは有名なエピソードだが、そのスイングの鋭さに金田が舌を巻いたという逸話がある。フルスイングの三振でヘルメットを飛ばした姿も絵になった。巨人軍の監督を退いた後、日本代表チームの監督としてアテネ五輪を目指していた2004年に脳梗塞に倒れ、右半身にマヒが残った。懸命のリハビリで少年野球を指導するまでに回復。2021年の東京五輪の開会式で王貞治、松井秀喜氏とともに聖火ランナーを務めたことは記憶に新しい。
野球を通じ戦後の日本に夢と感動を与え続けた、まさに太陽のような存在だった。下五に置かれている「日天心」という言葉は、蕪村の句「月天心貧しき町を通りけり」を借りた作者の造語であろう。この句会の兼題は「夏至」だった。夏至の太陽は南中高度が最も高くなる。空高く輝く夏至の太陽と、球界の輝く存在だった長嶋選手を重ね合わせた〝技ありの季語〟と読んだ。
(迷 25.06.25.)
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