石の罠築き少年鮎を待つ 中村 迷哲
『この一句』
この句を選句表の中に見つけて、私自身の少年時代もにわかに蘇って、すぐさま二重丸をつけた。なんとも郷愁を誘われる句である。
稚鮎が遡上して来る川の浅瀬に円形に石を積み上げ、下流の側を少し開けておく。鮎は石ころの積み重なったところに沿って上る癖があるから、罠とも知らずに円形の石ころ堰に入り込む。じっと睨んでいた少年はすかさず導入路を石で塞ぎ、閉じ込めた鮎を石壁に追い詰め、素手で捕まえる。作者の故郷佐賀での6、70年ほど前の実体験を踏まえた句。鮎の入り込むのを辛抱強くじいっと待つ迷哲少年の挙措が浮かぶ。
しかし、果たして迷哲少年はこの仕掛けで見事に鮎を捕獲できたのだろうか。出来たのである。
それが証拠に、作者は同じ句会に「手獲りせし鮎に香魚の謂れ知る」という句を提出している。「捕ったぞ」と快哉を叫んだ少年は握りしめた鮎がぷんと匂い立つのを感じた。取れたての鮎は「香魚」とも言われるように独特の香りを放つ。西瓜のような胡瓜のような香りで、いかにも清らかな感じがする。こうして鮎は少年の心に刻み付けられた。
掲句はもとよりだが、その「続き」である香魚の謂れを知ったという句もなかなか面白い。これに付近の風景や植物などを詠んだ句を二、三加えて「〇〇川初夏」とでも題を附した連作を詠んだらいかがであろう。素晴らしい作品になる。
(水 25.06.15.)
この記事へのコメント
迷哲
2年ほど前に詠んだ「夏雲や度胸試しの淵へ跳ぶ」もこの川を舞台にした句です。お勧めに従い、もう1,2句考えて、連作に挑戦してみます。