さつきメイ五月ゆかりの名うるはし 中野枕流

さつきメイ五月ゆかりの名うるはし 中野枕流

『おかめはちもく』

 選句表で見た時に、五月の呼び名を並べただけの句と思ってスルーした。句会では1点しか入らず、合評会の対象にもならなかった。最後にそれぞれの句の作者名を確認している時に、この句にただ一人点を入れた三薬さんが、「これってトトロだよね」とつぶやいた。その瞬間、アニメで見た初夏の風景が立ち上がり、サツキとメイという主人公姉妹の元気な声が聞こえて来た。
 「となりのトトロ」は宮崎駿監督のアニメ映画。田舎の古い家に越してきた姉妹と、初夏の森で出会った不思議な生物トトロとの交流と冒険を描いた作品である。
 姉のサツキは11歳、妹のメイは4歳という設定で、「小説となりのトトロ」によれば、二人とも五月にちなんで名付けられたという。作者は作品をよく知っていて、抒情的で美しいアニメのイメージを借りて、五月の麗しさを詠んだのであろう。
 問題は「さつきメイ五月ゆかりの名」の表現で、どれだけの読者がトトロのアニメを想起できるかである。1点入ったとはいえ、大多数の読者はトトロまでたどり着けないのではないか。もう少しアニメの世界を示唆する言葉が欲しかった。例えば「さつきメイ姉妹の駆ける森五月」とか「さつきメイ五月の森で会うトトロ」とか考えてみたが、どうだろう。
(迷 25.05.29.)

この記事へのコメント

  • 杉山三薬

    おかめはちもくにもう一声。作者の意図を忖度すると、トトロの文字は入れたくない。五月ゆかりの名前の表現で、分かってほしいということだろう。迷哲さん指摘のように、物語の舞台を考えると「五月の森」を入れるのもいい効果を呼ぶだろう。では「五月の名前で翔る森」なんてのはどうかしら。とまあ、脇からあれこれ言いたくなる楽しい句ですね。句会では多くの点が入る句が、優先的に取り上げられるのはやむをえない。点は少なくても、この句のようにチャレンジングな作が、もっと取り上げられるといいな、ともう一声。
    2025年05月31日 06:44