うっとりと呼び出しの声五月場所 坂部富士子

うっとりと呼び出しの声五月場所 坂部富士子

『この一句』

 快進撃を続ける大関大の里の話題で盛り上がる五月場所。季語「夏場所」の傍題でもある。「相撲」は、旧暦7月の宮中行事「相撲(すまい)の節(せち)」にそのルーツがあることから秋の季語とされる。相撲が庶民の娯楽になった江戸時代は、一場所10日間の年2場所興行だったので、「一年を二十日で暮らすいい男」と川柳に詠われた。現在の一場所15日間、年6場所になったのは1958年からだ。奇数月毎に開催される大相撲は、季語としては「初場所」や「夏場所」として区別されている。中でも両国国技館で開催される五月場所は、隅田川の爽やかな川風も相まって初夏を実感させる季語だ。
 半世紀ほど前、入社早々の筆者はシャッターチャンス修行のため、夏場所取材に出された。土俵下の「砂っかぶり」という場所、つまり控えの力士に並んで座り、写真を撮ったのだ。始めて任されたスポーツ取材だったが、栃若時代から始まって、柏鵬、輪湖、など長い間の相撲ファンで、力士の四股名をはじめ、所属部屋や決まり手など相撲に詳しかったこともあり、緊張どころかワクワクする取材だった記憶がある。
 さて掲句、作者は呼出独特の節回し、発声に惹かれたという。主役の力士ではなく、装束が美しい行司でもなく、呼出という脇役だが無くてはならない存在に焦点を合わせた所に〝通〟を窺わせる。それもそのはず、作者は入会時の自己紹介で隠岐の海推しを表明していたのだ。実に渋いチョイスだ。休みの日には国技館で観戦するという根っからの相撲ファンらしい一句で、凜々しい裁付袴の呼出の美声に「うっとりと」したのも宜なるかな。ただ、俳句としては「うっとりと」は言わずに「よくとほる」くらいの方が納まりがいいのでは、と思った。
(双 25.05.23.)

この記事へのコメント

  • 酒呑堂

    私も(双)さんの「よくとほる」くらいがいいかなという御意見に賛成します。しかし、あの呼び出しの美声には確かにうっとりしますよね、大昔「太郎」という名呼び出しがいましたねえ。気っ風のいいおカミさんが自宅をそのままちゃんこ屋にして、家庭料理のようなちゃんこ鍋を食べさせていました。豆もやしが沢山入った素朴でとても美味しいちゃんこでした。
    2025年05月23日 11:44