牛久大仏ぬっとあらはる朧かな 廣田 可升
『この一句』
茨城県牛久市には河童が棲むという沼があって、昔は草深い所だった。現在ベッドタウンとして大いに発展している。うな丼の発祥地は牛久沼の渡しだという伝承も、沼のほとりに住んだ小川芋銭の河童絵も昔話だ。日本遺産になった明治のワイナリーが観光客を呼び、飲めばしびれる電気ブランの浅草神谷バーへと今につながる。古い牛久が残っていそうな市の外れには牛久大仏が立つ。掲句は「朧」の兼題にこの巨大な阿弥陀如来像をもってきた。作者によると、水戸偕楽園の「梅まつり」に行った帰りの夕刻、圏央道を走った時の実景だという。牛久大仏のまわりには森があって、突然視野にあらわれた。その情景を詠んだものだと解説した。
「ぬっとあらはる」に実感がこもる。高さ120㍍、ニューヨークの自由の女神より30㍍近くも大きい世界屈指の青銅像だ。黄昏どきこの仏像に突然出会えば、信仰がとくに篤くなくても思わず畏まるかもしれない。高速道からはたぶん頭か胸より上が見えた。下半身は隠れているが、全身が朧のなかにあると言っているのだ。鎌倉で「長谷大仏ぬっとあらはる」と詠んでも雰囲気は出るが、詠み古された感じがする。実景とはいえ牛久大仏のほうがずっと新鮮だ。「夕景の牛久大仏には凄みがあります」との作者の言に素直にうなずける。実際に体験した感覚を、まるで海坊主にでも出くわしたかのような表現、「ぬっと」で諧謔味まで出した。
(葉 25.04.19.)
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