房総の道の明るさ野水仙 大沢 反平
『季のことば』
水仙はヒガンバナ科の多年草で、地中海沿岸が原産とされる。本州や九州の海岸でよく自生の群落がみられるため日本固有の植物と思われがちだが、水牛歳時記は「奈良時代前後に中国経由で伝わり野生化したものであろう」と述べている。冬枯れの時期に清楚な花を咲かせ、気品ある姿が印象的なことから、晩冬の季語となっている。
水仙の群生地として伊豆の爪木崎や福井の越前岬が有名だが、房総もそのひとつである。太平洋に面した南房総は黒潮の影響で冬でも暖かく、東に開けているので陽光が降り注ぐ。一帯は国定公園に指定され、冬場でも様々な花が咲き、人気の観光地となっている。
掲句はその房総を形容するのに「道の明るさ」を持ってきて、多くの支持を集めた。「道の明るさに惹かれた。房総の明るい雰囲気が伝わる 百子」とか「春を先取りする感じがあり、水仙に合っている 可升」など、この言葉に心を掴まれたようだ。
千葉県に長く住み、房総半島のドライブが趣味だったという作者は、どこで水仙を見たのであろうか。鋸山の麓にある鋸南町には水仙の群生地があり、3キロにおよぶ水仙ロードでハイキングを楽しめる。九十九里海岸に立つ太東崎灯台の周りには水仙が自生している。今は神奈川に転居しドライブもままならない作者にとって、かつて見た房総の明るい道は、追憶の中でさらに輝きを増しているのではなかろうか。
(迷 25.01.11.)
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