教壇に薫る一輪水仙花      徳永 木葉

教壇に薫る一輪水仙花      徳永 木葉

『この一句』

 殺風景な寒々とした教室の教壇机に一輪挿が置かれ、水仙が一本挿されている。非常に印象的な句である。気の利く女生徒がそうしたのか、女先生が持ってきたものか。味気ない教室にほっと温もりを感じる。私は七十年前の高校の教室を思い出した。まさにこの情景に出会ったのだった。
 句会でもとても人気を呼んだ句である。「遠景の水仙を詠んだ句が多い中で、一輪の水仙に焦点を当てて秀逸」(朗)、「水仙をどこに咲かすか、この句は教壇を選んだ。確かに教壇に飾る花一輪と言えば、水仙が似合いそうです」(双歩)、「一輪挿に薫る水仙。凛とした教室の風景」(操)、「教壇の牛乳瓶に花が挿してあった風景が懐かしい」(豆乳)、「児童が庭の水仙を一本。授業がはかどりそうです」(定利)、中には「もしかしたら、生徒から慕われていた先生がお亡くなりになったのか」(守)という句評もあった。
 皆々思いは似通っている。作者の生まれ育ちは北海道、この句を採った人たちは東北から九州まで広がっている。水仙という草花が日本国中津々浦々に広がり、日本人の郷愁を誘うものになっていることが分かる。身も心も縮んでしまう厳寒の中で健気に花咲かす水仙は、見る人の心に灯をともすのだ。
(水 24.12.28.)

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