焼き餅のぷっと膨れて縮みけり 前島 幻水
『この一句』
番町喜楽会12月例会の兼題句である。餅が焼ける様子をよく見て、素直に詠んだ句で、「ぷっと膨れてが楽しい。匂いも伝わってきそうだ」(光迷)と、衒いのない詠みぶりに好感を抱いた人が多かった。
最近は電子レンジやオーブントースターで餅を焼く家庭が多く、焼ける様子を見たことのない子供もいるようだ。昭和30年代までは火鉢の炭火の上に網を置き、餅を何個か並べて焼いた。子供たちは早く焼けないかと、周りで目を凝らして待ったものだ。掲句からはそんな懐かしい時代の年末の光景が立ち上がって来る。
選句表のすぐ近くに「焼餅のぷうと息して肩下ろす」という嵐田双歩さんの句があり、そちらを選んだ人もいた。評者もそのひとりで、擬人化表現に面白みがあり、「ぷうと息して肩下す」の表現はよく工夫されていると感じた。これに対し「擬人化が気になって、餅が焼ける瞬間を素直に詠んだ幻水さんの句を採った」(可升)との意見もあった。
擬人化表現に対する好みが票を分けた形だが、幻水句も「焼き餅」を嫉妬の焼きもちと考えれば、若い女性が頬を膨らませて拗ねている姿ととれないこともない。いわば隠された〝擬人化〟の句と見るのは牽強付会と言われるであろうか。
(迷 24.12.26.)
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