母と子のカフェで宿題暮早し 植村 方円
『この一句』
現今の世情をビビッドに切り取った一句である。夕方の街中か駅のカフェで、子供がテーブルに宿題を広げ、母親が見守っている。どんな事情があってカフェでやっているのだろうと、疑問が湧く。働くお母さんが仕事の都合で家で見る時間がないとか、あるいは塾に連れてゆく前に宿題を済まそうということかもしれない。騒がしい店内で、わざわざ宿題をやる光景は差し迫った感じがあり、暮早しの季語の雰囲気とよく合っていると思う。
学校の宿題は家に帰ってからやるものという固定観念があるので、句会でも「なぜカフェで」と議論になった。作者自身が「何で家でやらないのかと、自分の句なのによく分からなくて」と述懐する中、実千代さんが「最近はお母さんと子どもとか、家庭教師と生徒とかが、たくさんスタバなんかで勉強してるんです。家庭教師と高校生や中学生のやりとりが聞こえてきたりします」と解説し、一同納得。作者も「やっと腑に落ちました」と大きくうなずいていた。
総務省の2023年の統計によれば、働く女性の増加に伴い共働き世帯は1,206万世帯と7割を超え、専業主婦世帯は404万世帯の25%に減っている。子供の帰りを待ち、宿題を見てやれる家庭は今や少数派である。働くお母さんたちは、仕事をやりくりし、生活スタイルを工夫しながら、子供と一緒にいる時間を確保することになる。作者がカフェで目にしたのは、そんな現代社会の断面だったようだ。
(迷 24.12.18. )
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