から松の散るや十勝に雪近し 徳永 木葉
『この一句』
読めば広大な十勝平野の晩秋の景が浮かび、季節感と詩情あふれる句である。十勝平野は北海道東部に広がる台地で、石狩山地と日高山脈を背負い、太平洋に面している。畑作と酪農を中心に、機械を活用した大規模農業地帯として知られる。農場はカラマツやシラカバの防風林で区切られ、雪を頂く山脈を背景に、緑の短冊を敷き詰めたような景観が美しい。
その防風林のカラマツが、秋が深まると落葉するのである。一般に松は常緑樹だが、日本固有種であるカラマツだけは落葉する。針状の松葉が緑から黄色、黄土色へと葉色を変え、ハラハラと散る様は風情を誘う。北原白秋はその詩に「からまつはさびしかりけり」と詠い、小林秀雄作曲の「落葉松」は秋の雨に落葉するカラマツを嫋々と歌い上げる。
さらにこの句の詩情を深めているのは、「散るや十勝に雪近し」という措辞である。カラマツが散れば、そろそろ雪が降るといのは、実際に住んだ人にしか分からない感覚であろう。句会での可升さんの「あぁまた厳しい冬が来るんだなぁと思いつつ、逝く秋を惜しむ気持ちが伝わってくる」という句評に大いに同感した。作者は十勝平野の中心の帯広生まれと聞いている。幼い頃から目にした風景と、体に浸みこんだ北の大地の季節感。十勝に産まれ育った者でなければ詠めない佳句ではなかろうか。
(迷 24.11.29.)
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