金継ぎの碗の温もり秋時雨 中嶋 阿猿
『この一句』
金継ぎとは、陶磁器の割れたり欠けた部分を漆で補修し、金粉や銀粉で装飾を施す漆芸技法である。縄文時代の遺跡から漆で継いだ土器が出土するほど古くからあるが、室町時代に茶の湯が盛んになると、技術的に洗練され、継いだ跡を景色として賞玩するようになった。近年は趣味として取り組む人も多く、各地の金継ぎ教室は若い女性らでにぎわっているという。
掲句は晩秋の一日、金継ぎされた碗を手に、その温もりに癒されている人物を描く。日常遣いの食器は金継ぎに向かないので、おそらく抹茶碗であろう。季語の秋時雨が、少し肌寒く侘しい感じを醸し、碗の温もりが両手からじんわり伝わって来るようだ。
時雨は冬の初めに、ぱらぱらと降る通り雨のこと。角川俳句大歳時記によれば、時雨は京都の歌人たちに歌の題材として愛されてきた歴史があり、「時雨という季語は京都で生まれ、京都の初冬の美意識として完成した」とされる。晩秋に降る秋時雨は、近づく冬と秋の終わりを意識させ、しみじみとした情感が深まる。作者は金継ぎの碗を手に、日本の伝統文化が育んだ技術と美意識の出会いを、掲句で演出したのかも知れない。
(迷 24.11.19.)
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