秋時雨蕎麦懐石の果つる頃    水口 弥生

秋時雨蕎麦懐石の果つる頃    水口 弥生

『合評会から』(日経俳句会)

青水 大満足の吟行の、大満足のうまい蕎麦。真夏日だった昼間が嘘だったように、最後にはらりと秋の時雨が。吟行を締めくくるにふさわしい一句。
双歩 蕎麦屋で一句、と選び、中でもリズムが良いこれにしました。
迷哲 打ち上げ会場の蕎麦「石はら」は、世田谷らしい味わいのある店でした。しゃれた器に盛られた料理と漆塗の片口で頂く地酒。宴果てて外に出れば、秋時雨がぱらぱらと……。
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 句友と名所旧跡や野山などを訪ね、目に入ったものなどを詠む吟行。このときは豪徳寺から世田谷城址、松陰神社など東急世田谷線の沿線探訪で、電車や招き猫、懇親会などを句材とする競作となった。「俳句は写生」といわれるが、どの場面を切り取り、どう料理するかに作者の個性が滲み出て興味深い。
 吟行の楽しみの一つに、散策を終えての歓談がある。酒も入るので、和気藹々の談論風発が繰り広げられる。この一句は、その懇親会もお開きに、というところを詠んだもの。美味を楽しんだ蕎麦懐石に、降り始めた秋時雨を取り合わせたことで、名残惜しいけど…という感じが巧みに表現されている。
(光 24.11.13.)

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