そぞろ寒娘が米を借りにくる 杉山 三薬
『この一句』
この夏は「令和の米騒動」といわれ、店頭からお米が消えた。そもそも新米が出回る前の8月は、端境期でもあり在庫は減っている。そこへ、南海トラフ地震臨時情報や大型台風接近による各家庭の米備蓄が重なったため、と一般的には言われている。他にも昨年の猛暑で高品質の米の生産量が減った、インバウンドによる外国人の消費が増えた、減反政策のツケなどと、様々な要因が浮かび上がった。9月半ばになって、ようやく新米が出回るようになり、多少割高だが米が店頭に並ぶようになった。
そんな時勢を踏まえ、掲句は嫁いだ娘が米を分けてくれと実家に泣きついてきた、という。「そぞろ寒」に相応しい光景だが、この夏の米騒動を度外視して、掲句に出会ったとしたらどう感じるか。主食の米を借りにくる何か差し迫った理由があるのだろうか。あるいは、近所に住む娘さんが気軽に「お母さん、ちょっとお米ちょうだい」と駆け込んできたのか。水牛さんは後者を採り「江戸の昔から今日まで連綿と続いている長屋風景にも通じる実にいい句」と絶賛。
実は、この日の席題は「米」だった。しかも、出題したのは作者である。作者が明かされると、一同感心するやら冷やかすやら、大いに盛り上がった。とはいえ、掲句には出題者の気負いは感じられず、とても素直な感じの良い句だ。作者の思惑通り、天の位を獲ったのも宜なるかな。
(双 24.10.05.)
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