猫達と夫に一献遠花火 藤野 十三妹
『季のことば』
花火は夏の風物詩として親しまれているが、江戸時代は秋の季語だったという。水牛歳時記によれば、もともとお盆の行事として始まったものが、「明治以降、夏休みの景気付けに各地で7月に花火大会が開催されるようになって、夏の季語になった」。よく知られる隅田川花火大会は7月の最終土曜日に開催される。夏休みと花火の記憶が重なる人も多いのではなかろうか。
同類の季語に、打揚花火、仕掛花火、庭花火、線香花火などがあり、離れた場所から花火を眺める「遠花火」もその一つである。間近で見る花火の迫力はないが、遠花火には光に遅れて音が届く面白さや、暗闇に小さく浮かんで消える儚さがある。
掲句の作者はその遠花火を猫達と眺めている。「夫に一献」とは、花火がお盆行事であったことを踏まえると、亡くなった夫に盃を捧げていると考えるべきであろう。作者は2年ほど前に最愛の夫を亡くし、偲ぶ句をたくさん詠まれている。掲句もそれに連なる一句であろう。
独り暮らしの作者が、飼っている猫と花火を見ながら、亡き夫を思って酒を汲むという状況が、遠花火の持つしみじみとした雰囲気と響き合っている。花火が遠いだけでなく、亡くなって2年を経て、夫との思い出も少し遠くなったという感慨もにじんでいるように思える。
(迷 24.09.04.)
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