柴犬の耳ピンと立つ秋の声     斉山 満智

柴犬の耳ピンと立つ秋の声     斉山 満智

『季のことば』

 秋の声とは「澄んだ空気の中に、繊細になった聴覚が捉えた秋の気配をいう」(角川俳句大歳時記)。風音、葉擦れの音、投句の水音、虫の音などが例示される。水牛歳時記は「秋を感じさせる心に響く物音であり、実際に耳で聴く場合もあれば、何か聞こえてくるような気がすることもある。広く秋の気分ととった方が良いようだ」と解説している。
 明確な声・音ではなく、気配や気分なので、句作にあたっては秋を感じさせる風景、物音、状況などを詠むことになる。掲句は犬の耳という意外なものを登場させ、その動きに秋の声を感じ取っている。句会では点が伸びなかったが、そのユニークな取り合わせが目を引いた。
 犬は毛に覆われているため汗で熱を下げることが出来ず、暑さに弱い。最近の猛暑では日陰で寝ていることが多く、柴犬の特徴である三角の立ち耳も垂れ気味である。作者はその耳が久しぶりにピンと立ったのに目をとめた。愛犬が何かに気づき、気力を取り戻した様子に、秋の気配を感じたのである。散歩をせがまれたのかも知れない。犬にいつも気を配っている愛犬家だから気づいた視点であろう。
 犬の聴力は人間の4倍といわれ、人には聞こえない低い音や遠くの音を聴くことが出来る。もしかするとこの柴犬は、本当に秋の声を聴き取ったのではないかと考えると、愛犬家ならずとも愉快になってくる。
(迷 24.08.29.)

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