素麺にあれもこれもと季を重ね 高橋ヲブラダ
『この一句』
句会では「よく解らない句」という人が多くて、これを取ったのは私一人だった。「あれもこれもと季を重ね」たというのは、冷素麺に思いつくままの薬味を色々掛けたのだろうと解釈して、私と同じような食いしん坊がいるなと面白がったのである。しかし、あとで読み返しているうちに、自分の解釈が合っているのかどうかが分からなくなってきた。
でもまあ、俳句は投句したら最後、読み手があれこれ解釈するのは自由勝手で、時には作者の作句意図とは違う意味合いに取られて、それが定着してしまうことさえある。ここは私の解釈で押し通すとしよう。
素麺は冠婚葬祭の膳に出される格式ある食品で、春夏秋冬時期を問わないから季語に取り立てられなかった。しかし江戸時代も末になると、夏場に冷たい井戸水で冷やした素麺をもてはやすようになり、「冷素麺」が夏の季語になった。それが今ではどこの家庭も夏場になれば至極当たり前に素麺をつるつるやるから、「素麺」だけで夏の句として扱われることになった。
それとともに自称素麺通が続出し、ネットでは変わり素麺や薬味の数々が紹介されている。刻み葱、青紫蘇、茗荷、海苔あたりは定番だが、おろし生姜、わさび、唐辛子、大根おろし、ナンプラー、白胡麻、刻みニラ、錦糸卵、梅干、明太子、シーチキンと目が回りそうだ。「季重ね」もいいところだが、素麺好きには「さて今日は何素麺にしようか」という楽しみともなる。
(水 24.08.15.)
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