夕まずめ網うつ老父夏の川 池内 的中
『季のことば』
「夏の川」は朝・昼・晩で大きく印象を変えるが、ことに夕方は趣一入である。この句について番町喜楽会6月句会の合評会では「夕暮れ迫る夏の川で投網漁の老夫の姿が浮かぶ。モノクロ景色の風情」(てる夫)、「老父と言っても矍鑠とした人物が浮かびます。夕陽を浴びて投網を打つ姿は一幅の絵です」(迷哲)、「恥ずかしながら夕まずめという言葉をはじめて知りました。夕方薄闇の中はよく釣れるのだそうですね。老父が涼をとりつつ、のんびり魚を獲っている様子の句。何だかとても良いなあと採りました」(斗詩子)と、賛辞が相次いだ。
「夕まずめ」という言葉が効いている。これは漁師や釣師が言い出して一般化した言葉だそうだが、日没前後の一時間ばかり、魚が気負い立って餌によく食いつく頃合いである。夏の夕まずめの川漁は気分が良さそうだ。
作者の言によれば、「小学校六年。父の転勤により松山で一年間過ごした時に、重信川(しげのぶがわ、愛媛県)で網をうつ老夫の姿を見た経験からこの句ができました。西日に向かって網を打っているので、後ろ姿の影しか見えないのですが、とてものどかに感じました。老夫としようか、老父にしようか考えたのですが、後姿を眺める息子(少年)を配して老父としました」。
「老夫」も誰かの父親、「老父」が自分の父親でなくとも一向に差し支えない。
(水 24.06.24.)
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