嫉み合ふ式部と納言卯波立つ 徳永 木葉
『この一句』
日経俳句会では月例会のほかに、酔吟会という別の句会を開いている。月例会は、やむを得ない事情による欠席での投句・選句を認めていて、事前投句で参加しやすい形式でもあり毎回40人近い出句者で賑わっている。一方、酔吟会は出席者のみによる出句、清記、披講という本来の句会を踏襲していて、活き活きとしている。兼題のほか席題を設けたり、選句の中に特選句を入れたりと新趣向もあり、とても魅力的な句会だ。
席題は、結社の主宰や句会を司る指導者が出すのが普通だが、日経俳句会はあくまでも互選による和やかな句会なので、次回の席題出題者は参加者のくじ引きで決めている。5月例会の席題は「嫉妬」。「嫉み」「妬み」「焼き餅」「ジェラシー」も可だ。前回の水牛さんの席題「あっかんべー」にも度肝を抜かれたが、今回のも驚いた。あまりにも詩心を感じにくい言葉だからだ。作句には苦労したが、15分足らずの短時間で果たしてどんな句が出てくるのかと楽しみにしていたら、掲句にびっくり。NHKの大河ドラマ「光る君へ」をベースに、雅な世界を今の話題として提示したのだ。よくもまあ、即興でここまで完成度の高い句を詠んだものだと感服し、特選に推した。
ところが、作者が席題の出題者だと分かり、二度びっくり。高点を得た作者から「この句が出来たので席題を『嫉妬』にした」と種明かしをされ、三度目のびっくり。この手口、参考にはなるが、必ずしも上手くいくとは限らない。自信満々で出した句が返り討ちに遭うのはよくあること。俳句は奥が深い。
(双 24.05.28.)
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