薫風に妬みそねみを吹き流し 大澤 水牛
『合評会から』(酔吟会)
三薬 嫉妬の席題に対して、当日隅田川畔の薫風を持って来たのが、お手柄。あの風の前には嫉妬など、小せえ小せえ。ただ、下五の吹き流しが、鯉のぼりの印象が出てしまうので、やや惜しまれる。
青水 果たして季語と席題がマッチしているのかどうか。悩んだ末に、ええい、ままよと一票。自句の「夜濯ぎや嫉妬軽々流したり」と比べても、どっちもどっちだと思った。
愉里 席題の句で、「式部と納言卯波立つ」の句とこちらの二句を選んで、こちらを特選としました。嫉妬というドロドロとした言葉に、季語の薫風をつけてさらっと詠んでいるのがすごいと思いました。
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川柳めいた席題「嫉妬」に出席者は面食らったようで、出題した筆者はにんまり。この句の肝は季語の「薫風」にあると思う。当日まさに薫風が吹く深川芭蕉記念館での句会。作者が自句自解するように、即席句に窮すれば目の前の風景をくっ付けて詠むに如かずという思いから、「薫風」と「吹き流し」に行き着いた。ドロドロした席題にさらりと、しかも軽く、気持ちの良い句になった。下五の「吹き流し」が季語名詞であり鯉のぼりの印象を持たれるとの指摘もあるが、「吹き流す」とせずあえて「吹き流し」と余韻を持たせたものとみたい。
(葉 24.05.25.)
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