初鰹シュート決めたる脹脛 谷川 水馬
『この一句』
番町喜楽会の5月の兼題である「初鰹」の選句表には、料理する様子から始まり、盛り付けた皿、地酒との取合せなど、食材としての鰹を詠んだ句がずらりと並んだ。鰹が日本人の食卓に古くから登場し、好まれてきた歴史が選句表に表れているように感じた。
そんな中で異彩を放ったのが掲句である。上五に初鰹と置いて、いきなりシュートが出てきたのには驚いた。下五の脹脛まで読み進んで、シュートを決めた筋肉隆々とした脹脛と、丸く太った縞模様の鰹の姿を取合せた句だと初めて分かった。
初鰹の句と言えば江戸時代の山口素堂の「目には青葉山郭公はつ鰹」が良く知られるが、こちらは意図的に初夏の季語を三つ重ね、瑞々しさを詠んだ句である。これに対しサッカーを取合せた掲句は飛び離れているように見えるが、鰹の姿と選手の脹脛を思い浮かべると、イメージは重なってくる。「シュート決めたる」の中七が、鰹からいったん意識を遠ざけた上で、下五で脹脛の画像に落着させる。なぞなぞ風の句の展開も工夫されている。
鰹は生まれてから死ぬまで泳ぎ続ける。体の組成を見ると、水分を除くと大半がタンパク質であり、いわば全身を筋肉として大海原を群遊している。サッカー選手も練習・試合と四六時中ピッチを走り回っている。太ももや脹脛は筋肉が盛り上がり、弾丸シュートを生み出す。近年はたくさんの日本人選手がサッカーの本場のヨーロッパや南米のチームで大活躍している。足の筋肉を頼りに世界を駆けまわるその姿は、何やら鰹に重なってきた。
(迷 24.05.21.)
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