会いたいと言うだけの人春の塵  斉山 満智

会いたいと言うだけの人春の塵  斉山 満智

『この一句』

 一読して「こんな奴いるいる」と大笑いしながら点を入れた。「今度ぜひ会いましょう」などと言うだけの口先男の軽さと、春の風に舞い上がる塵がマッチして、諧謔味漂う句となっている。4月の番町喜楽会で最高点句のひとつとなり、我が意を得た思いだった。
 春は風の強い日が多く、とかく埃や塵が立ちやすいので「春の塵」は、わざわざ季語に立てられている。春一番から始まって、東風、涅槃西、春疾風など春の風に関する季語は多い。それに伴って舞い上がる塵もさまざま目にすることになり、中にはモンゴルの砂漠から飛来する黄砂などという傍迷惑なものまである。
 句会では「この語順だと、言うだけの人が春の塵だと悪口を言っているように読める」との意見が出た。「春塵や」と上五に持ってきて、句に切れを入れてはどうかとの案も示された。しかし人と塵の間を切ると、関係性が遠くなりすぎて、諧謔味が薄れるように思う。
 むしろ作者は「言うだけの人」は春の塵のように軽い存在だと言いたいのではなかろうか。それは悪口というより、相手にしないという姿勢である。コロナ籠もりで人と行き来できない時期が数年続いた。コロナが明けた今、「久しぶりに会おうよ」という言葉の重みを改めて感じている。
(迷 24.04.27.)

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