燕来る外国人来る古長屋 伊藤 健史
『この一句』
このごろ新聞やテレビに「インバウンド」という横文字言葉がしきりに現れる。inbound という英語は単に「外から内へ(入って来る)」という意味なのだが、今盛んに言われているインバウンドは観光業界用語の「訪日外国人」を指す言葉として通用している。
成長力の鈍化してしまった日本がこれから食っていくには、「インバウンドが頼り」というのも半ば当たっているかも知れない。日本の大企業は既に国内市場に見切りをつけて、海外で生産販売し、そこで挙げた利益は海外で再投資し日本には還流しない。日本の大金持も海外に資産逃避している。しかし大多数の庶民はこの島国から逃げようもないから、“インバウンドさん”の落とす金を少しずつ分け合って食って行くより道はない。そこで「円」を安売り、つまり日本の有形無形のものを割安価格で提供し、「日本は安い」を印象付けて、一人でもたくさん来てもらうよりしょうがない。
インバウンドさんたちは好奇心が強くて、日本国中歩き回る。大金持ばかりではなく、庶民階級のインバウンドさんも増えて来たから、時には昔ドヤ街などと呼ばれた裏町の古長屋を改造した安ホテルにも喜んで泊まる。となると、狭いところだけに古くからの住民といざこざを起こすことも稀ではなくなる。そういう軋轢を避けるために、私たちは「インバウンド受入先進国」のオーストリーやスイスの人たちを見習うべきだ。これらの国の住民はインバウンドさんたちに極めて優しく親切に当たる。しかしそれはあくまでも上辺だけ、自分たちの本当の生活圏には絶対に入れない。糞をする燕を軒先限りにしているように。
(水 24.04.09.)
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